本講演会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催延期も検討されていたが、お申込みいただいている方々から「開催するのであれば参加したい」という熱心な声に勇気づけられ、あえて開催を決定した。こうした状況の中でも当日ご参加いただいた皆さまに感謝申し上げるとともに、以下にて本講演会の一部をご紹介したい。 (スピーカーの一人である鄭 偉氏は、コロナ対応の諸事情により、やむなく日本からの渡航を断念し、オンラインでの参加となった)
みんなが携帯を持ち、インターネットでつながっている。情報は“瞬間的に安く”手に入る。これがデジタルネイティブといわれる1996~2009年生まれのZ世代が育ってきた環境だ。第3部では、Z世代の採用と育成について以下のような意見交換が行われた。
![]() |
私はZ世代を“クリック・ジェネレーション”とネーミングしている。クリックすれば何でも手に入る。しかも、かなり早く。ゆえに「短気」という特徴を持っている。例えばタイ人の新卒採用を例に挙げると、コンタクトしてから1週間もたてば、もう別の企業に決めている。電話しても出ない。面接にも来ない。それを悪いとも思わない。また、この世代は責任を取らずに逃げるという特徴もある。プレッシャーがかかれば、お手上げで、給料もいらない、というスタンスをとる。いま、こういう人たちが増えてきている。一方で、若い時から数か国語をマスターし、計算も早く、ちょっと指示すればすぐに理解してやれる、というような「超優秀人材」が増えている。まさにZ世代の人材は“極端に”二極化してきている。企業側は、Z世代がこうしたした特徴をもっていることを理解したうえで、採用・育成・リテンションしていかなければならない。 |
![]() |
これから消費者の役割を担うZ世代の提案をどう取り入れていくかが鍵。そのためには、Z世代が憧れる、入りたいと思われる組織にしていくことが重要だ。例えば中国で成功している企業は、異文化の壁やジェネレーションギャップの影響を抑えるような、新しい世代を意識した勤務体系や評価・表彰制度を採り入れている。また、人材育成力のある、魅力あるリーダーを育成することは、人材をリテンションする足掛かりとなるだろう。Z世代への対応が遅れれば、日本企業の成長はかなり限定的になる。どのように企業の活力にしていくか、真剣に考える時がきている。働き方の自由度や、多様性に対応した「人と組織」のデザインが不可欠だろう。 |
私たちは今、技術の革新と産業構造の変革期にある。輸送手段とオンライン化の発展によって、ヒト・モノ・カネ・技術は、以前にも増して、簡単にグローバルに共有化できるようになり、日常生活の中でも日々、変化を感じるようになっている。「イノベーションのジレンマ」のようなことが日常的に起こりはじめているようだ。鄭氏も触れたように、こうした時代だからこそ、文化や世代の壁を越えた、変化をチャンスに変えられるような強い組織の地盤を作っていかなければならない。そして、そうした組織作りのために、スティ氏は本講演会で次のように方向性を示した。
VUCAという言葉がビジネスの現場で頻繁に言われるようになって数年経つが、今回の新型コロナウィルス感染症の影響のような先を見通すことができない事業環境の変化や、タイ政府の主導による産業構造の大きな変革など、我々はまさにVUCAの時代の真っ只中に生きていることを痛感する。本日の講演会で共有された様々な情報や示唆が、目の前の危機を乗り越え、発展していくための何らかのヒントになることを願っている。
【講演会を終えて】
文:サイコム・ブレインズUBCL 乙黒真弓
タイ出身。チュラロンコーン大学サシン経営大学院および一橋大学経済学部卒業。タイのコングロマリットであるCPグループやBMCL(バンコクメトロ)、Q.House、ヤオハンなどにおいて、経営幹部として経営戦略の策定や事業投資プロジェクトの推進に携わる。1999年にUBCL CO., LTD.を設立後は、在タイ日系企業およびタイ企業の経営コンサルティングや人材育成、日本企業のタイ進出のサポートを行っている。人材育成の領域においては、タマサート大学やマヒドン大学大学院で講師(非常勤)を務める一方、企業内研修の講師として戦略策定やマーケティング、CRM、オペレーション・マネジメント、問題解決などのコースを教えている。また、エグゼクティブ層を対象としたビジネスコーチとしての実績も多い。企業経営、人材育成以外の分野においても、ピーター・ドラッカーの経営書のタイ語版の翻訳や、講演会でのゲストスピーカーを務めるなど、幅広い分野で活躍している。
上海出身。国際基督教大学行政学博士課程修了。異文化関係とコミュニケーション学を専攻。アジアのコミュニケーション研究に関しては、地域の歴史的、思想的背景を深く掘り下げ、独自の視点で今起きている問題に鋭い分析を行う。日系企業内部のコミュニケーション問題には、自ら行ったフィールドワークに加え、多数のケースを分析して説得力の強い解決策を提示する。確かな理論に裏打ちされた現場重視のアプローチは、顧客から常に高い支持を集めている。
関西大学経済学部卒業。米国3M社の日本法人である住友スリーエム(現スリーエムジャパン)にて工業用素材やパーソナルケア製品のセールス、新規市場開拓およびマーケティング業務に従事。その後、コーポレートスタッフ部門に異動し、グローバルなマーケティング能力強化プログラムの日本への導入とカリキュラムの最適化を担当した。当社に入社後は、マネジメント人材育成研修や公開型の技術経営人材育成プログラムであるCICOM-ISL、ビジネス英語研修の企画と営業に携わり、現在は国内における人材のグローバル化施策の支援と、タイを中心とした日系企業の海外拠点における人材育成をサポートすることを中心に活動している。
フォームでのお問い合わせ