本講演会は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催延期も検討されていたが、お申込みいただいている方々から「開催するのであれば参加したい」という熱心な声に勇気づけられ、あえて開催を決定した。こうした状況の中でも当日ご参加いただいた皆さまに感謝申し上げるとともに、以下にて本講演会の一部をご紹介したい。 (スピーカーの一人である鄭 偉氏は、コロナ対応の諸事情により、やむなく日本からの渡航を断念し、オンラインでの参加となった)
出所: Royal Thai Embassy
タイ政府は2015年に、20年をかけて目指すべき国家ビジョンとして「Thailand4.0」を示した。そして、Thailand4.0を担うターゲット産業として10の産業をあげ、短・中・長期に区分して各産業を育成するための計画や具体的な施策を発表した。こうした産業構造の変革期にあっても変化の波に飲まれることなく成長を続けるためには、ローカルマネジャーに主体的なリーダーシップを発揮しながら組織をけん引してもらう必要がある。さらには、新しいテクノロジーとの親和性が高いZ世代を採用・育成して活躍の場を与える必要がある。しかしながら、早くからタイに進出している日系企業においては、マネジャー層の世代交代に伴う後継者育成に迫られているうえ、ローカルマネジャー層と若手社員の間に見られる世代間ギャップが大きな問題となっている。
本講演会は、サイコム・ブレインズUBCL代表の地紙がThailand4.0について概要を紹介した後、2008年から2017年までBOI(タイ王国投資委員会)の顧問を勤めたスティ・パナワーン氏が、Thailand4.0の施策の進捗について共有することからスタートした。 スティ氏の話を受け、参加者から次のような声が上がった。「ITやAIといった分野で、ある特定の技術をもつ人材について募集をかけたところ、候補者が沢山いたので、正直驚いた。一方、Fintechに関する申請のために政府に情報を取りに行ったところ、たらい回しにされて、政府は本当にやる気があるのか、と感じざるを得なかった。」 それに対してスティ氏は次のように答えた。
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確かに民間において、特にFintechの分野は急ピッチで開発や導入が進む一方、政府が主導する施策は思うように進んでいないのが現状だ。しかし、例えばこれまで何週間もかかったパスポートの更新手続きは、いまはその場で作業を完了してもらえるようになった。このように変化は突然起こり、動き出せば早い。こうした、これから迎える大きな変化を前にいま組織がすべきことは、優秀な人材の確保である。タイの失業率は1%程度という売り手市場。その市場に3-5%しかいない優秀人材は世界中から求められており、優秀人材を獲得・リテンションするためのコストは、今後さらに高騰していくだろう。こうした厳しい状況においては、むしろ、ポテンシャルのある若い人材を前もって採用し、社内で育成していくべきであろう。政府の動きが遅いということに惑わされてはならない。 育成に関して、日系企業は、社員の失敗に対して非常に厳しい。不確実なことや変化を恐れる国民性を持つ日本人は、すべてを管理したがるが、タイ人の部下にはもっと挑戦する場を与えた方がよい。同じ失敗を許す必要はないが、人はある程度の失敗を繰り返しながら新しい能力を身につけ、自ら成長していく。外国人部下ということで躊躇する部分もあると思うが、例えばメンタリングやコーチングを実施すれば、知識と経験を積ませる教育とリスクの管理を両立させることは可能だ。 |
離職率の高いタイにおいては「見込んでいた社員に転職されてしまった」という経験から、どれくらい育成に力を入れるべきかと悩んでいる企業は多い。しかし「本社との関係を理解し、自組織を良く知る、信頼できる有能な社員」を管理職にするのであれば、その候補者の母数を増やし、育成していくしかない。一方で、離職防止のためにできるタイ人社員のモチベーションアップのヒントはタイ人の価値観理解にある。次の章でご紹介したい。
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