日本では2020年2月以降、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、対面で会場に集合するスタイルの研修がストップする一方で、研修のオンライン開催と映像教材の活用が急速に進みました。今では多くの企業がオンライン/オフラインのメリット/デメリットを考慮しながら活用しています。一方、タイでは、毎日の新規感染者数が1万人を超えるピークを迎えた2021年8-9月時点でもなお、「タイ人社員にオンラインの公開講座の受講を勧めると、オンラインでは効果がないと言って参加したがらない」という声を在タイ赴任者の方々から伺いました。実際、国立マヒドン大学経営大学院(CMMU)と提携して開催している大変人気の公開講座「泰日マネジメント育成プログラム」がコロナ対策でオンライン開催になることを伝えると「今は参加を見送りたい」という回答をいただくことも少なからずあります。
今後、コロナが収束したとしても、移動コストのかからないオンライン講座を活用できないことは企業としてはもったいないことです。そこで、本コラムでは、タイ人がオンライン講座に後ろ向きになる要因を分析し、オンラインであっても積極的に参加してもらうためにはどうしたらよいのか、会社や上司が提供すべき支援とその在り方について、タイに20年以上滞在し、現在はサイコム・ブレインズがオンラインで提供する「日・タイ異文化理解と適応トレーニング」の講師を務める河島久枝氏にお話を伺います。
中部大学国際関係学部卒。1994年6月 タイ国立チュラロンコーン大学文学部に留学(タイ・スタディーズ専攻修士号取得)。研究テーマはタイ社会の変遷。4年間の留学で培ったタイ語とタイ社会・文化に関する知識を活かし、2000年よりタイ王国元日本留学生協会に勤務。協会が日タイの公的機関・企業と行う日タイ交流プロジェクトのコーディネーター、協会付属日本語学校教務主任として日本人とタイ人の文化的価値観の違いに寄因する摩擦への対応を日々実践している。タイ滞在歴は20年を超え、近年はこれまでの経験を活かし、異文化理解とマネジメントの分野における人材育成にも活動の場を拡げている。itim Internationall / the Hofstede Centre異文化適応プログラム認定講師。
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河島さんには2017年に当社代表の地紙と「タイ人とはどのような人々で、タイ人とビジネスを円滑に進めるためにはどうしたらよいのか?」というテーマで対談いただきました。 |
今回は、「タイ人社員がオンライン講座に後ろ向き」になる理由について解説いただけますか? | |
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タイ人が持つオンライン講座に対するイメージとタイ人の価値観が強く影響していると思います。 まず、オンライン講座を「テレビの前で、一人でぽつんと映像だけを見ている」というように勘違いしている声をよく聞きます。その場合、「講師がそばにいない状態では集中して映像を見続けることができず、途中でダラけてしまったり、自分を律することができないかもしれない」といった不安を感じて、敬遠する可能性があります。オンライン講座はバーチャルなクラスルームであり、講師は画面越しに参加者の様子をしっかりと観察して受講態度を管理していること、講師から当てられたり、意見を発表する機会がある、といったようにインタラクティブな交流があるので、一人の孤独感も、集中力が切れることも、さぼれるようなこともないし、オンラインであっても参加者と知り合って情報交換ができる、といったことを伝えると良いと思います。 次に、タイ人向け日本語講座でも良く見る光景ですが、タイ人は、ちょっと困った時に隣の人と相談したり、お互いに助け合いながら受講したいようです。オンラインだと、画面の向こうに講師や他の参加者がいて、やり取りできるとはいえ、「パソコンの前にひとり」というのは、「通信トラブルなど、何かあった時に、誰にも助けてもらえない」という不安や寂しさがあります。異文化理解と適応トレーニングで学習するホフステードの国民文化6次元モデルでも説明できることですが、タイ人は日本人以上に集団主義的で女性性が高いので、日本人のように「人より秀でるために、多くを学ぶ」ことよりも「みんなで一緒に受講している」と感じられるような交流のある学習環境を好みます。また、日本人ほどではありませんが、タイ人も慣れない環境で新しいことに挑戦するといった大きな変化は好みません。ですから、初めてのオンライン講座に対する不安や孤独の問題を解消するのであれば、例えば「会議室に数人で集まってオンライン受講する」というスタイルは、タイ人に合っていると思います。 |
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河島さんには当社の公開講座で、一人で参加の人もいれば複数でPC1台を共有している人たちもいる、というように、参加スタイルが混在したクラスにも登壇いただいています。 |
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これまでの経験からすると、当然、全員が一人1台のカメラ付きPCで受講いただければ、参加者一人ひとりの理解度を確認しながら進行できるのでベストです。でも、タイ人の側からすると、強いストレスを感じながら学習することは望んでいません。実際、画面越しでも、会議室で複数の参加者どうしが話し合いながら受講している様子を見るので、こうした受講スタイルでの対応も必要ではないかと思います。 例えば、会議室に2-3人のグループで、かつ複数グループの参加がある場合には、各グループに1台のカメラ付きPCを用意して、名札も見えるように準備いただくと、講師も参加者の受講状態を管理しやすいですし、参加者どうしのディスカッションもしやすいと思います。一人1台のPC準備が難しい場合には、1グループに1台のカメラ付きPC以外に、タブレットやスマホの併用を検討いただけると、参加者によるクラス内での発話や個別の交流がしやすくなるのではないかと思います。スマホだけではチャット機能を使いにくいですし、画面が小さくて投影資料も見にくいと思うのでお勧めしません。企業によっては、会議室のプロジェクターにも投影しながら参加されていることがあります。タイ人参加者にとっては、とてもありがたくて、良い対応の仕方だと思います。 |
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