「トップ営業がもつスキルを実践することで、あなたの会社の営業社員が劇的に変わる。」 そう言われても、「営業スキルの指導は、一筋縄ではいかない…」と受け取る方もいるかもしれない。だが、それが日本人の営業社員のみならず、国籍や文化の違う海外拠点のタイ人営業スタッフにも同じ効果をもたらすものだとしたら?
営業パーソンの育成は、企業の業績に直結する重要な課題である。言葉も考え方も違う従業員が、自社の製品・サービスをしっかりと売れるようになったら、これほど心強いことはない。
東京に本社を構え、「常に高い業績をあげる営業パーソンが“共通して実践している”スキル」を調査・分析し、「営業スキル」を体系化した日系研修会社サイコム・ブレインズ(株)。同社が日本で20年超にわたって提供してきたプログラムは「即効性のある営業スキルトレーニング」として多くの大手一流企業でリピート採用され、2014年からは同社のタイ支社が、タイ人向けにタイ語で学べる形でバンコクで提供している。今回は、タイ人営業パーソン向けセミナー「サイコム・ブレインズUBCL主催 1日公開講座『HPC®提案型営業基礎トレーニング公開講座』」について、実際の講座の様子をリポートする。
講座の冒頭、参加者のひとりが自社の営業課題について次のように話した。
「どの業界でも同じかもしれませんが、わたしの会社も、他社と比べてどれほど自社の製品が優れているかを、詳しく説明しています。そのうえで、競合他社がより安い価格を提示すれば、それに負けないように価格を下げて顧客に提案します。受注できることもありますが、この方法は会社としての利益が減りますし、いつも受注が取れるわけではありません・・・」
あなたの会社も、そしてタイ人営業スタッフも、同じように悩んでいるのではないだろうか。
この講座では、効果的な営業のスキルを学ぶためにロールプレイが繰り返し行われる。特に印象的だった場面、それはロールプレイを終えた参加者に対して、講師がこう問いかけたときだ。
「とても情熱的な営業トークでしたし、商品についても詳しく説明されていましたね。でも皆さん、今の説明で『この商品が買いたい!』と思いましたか?」
参加者の多くが、無言で否定の意思表示をした。どうやらこのあたりに悩みを解決するヒントがありそうだ。
講座の様子をさらにレポートする前に、この講座で学ぶ「提案型営業(=コンサルティング型営業)」という言葉に目を向けてみよう。
商品やサービスが多様化し、他社との競争が激化する現代において、「どうか買ってください!」というような営業スタイルは通用せず、これまでと同じやり方では、あらゆるものが売れなくなっている。一方、顧客の側から見ると、多くの情報や選択肢がある中で「自分にとって本当に必要なものがわからない」、あるいは多忙で煩雑な毎日を過ごす中で「自分自身のニーズ」に気づいていないことさえある。
そのような中で、顧客が営業パーソンに期待しているのは、実現したいことや解決したいことについて相談できる、あるいはすべきことなどをいっしょに考え、示唆してくれること。このニーズを満たすのが「提案型営業」だ。
想像してほしい。あなたがいま抱えている問題を、親身になって考えてくれる人がいたら、どんなに心強いだろう? 単に自社の商品・サービスを売り込むのではなく、顧客がかかえる「課題の解決」を一緒に探るということが、どれほど魅力的なサービスになるか。あなた自身が求めているものは、顧客も求めているのだ。
この講座で学ぶ「HPC®」は、顧客から「相談したい!」ビジネスパートナーとして認められ、常に高い業績をあげている提案型営業のプロフェッショナルが「共通して実践していること」を「Hearing=聴く」「Proposing=提案する」「Closing=取り決める」という3つのステップで体系化したものだ。同内容をタイ人向けにタイ語に翻訳し、内容をカスタマイズして、2014年からタイ人営業パーソンのための研修プログラムとして提供している。
午前9時半から始まった講座は、昼食を挟んで夕方5時までみっちりと続く。平易なタイ語で行われるHPC®の解説と、顧客+販売員の役割で行われるロールプレイ。座学と実践によるトレーニングを繰り返すことで、提案型営業に必要なマインドとHPC®のスキル、そして具体的な商談のすすめ方を学んでいく。
講師は、スティー・パナワーン氏。大手財閥系企業などでも経営幹部の経験を持ち、日本語および日本人のマインドも理解した、日系企業にとって心強い人材開発のエキスパートだ。
さて、冒頭で紹介したロールプレイの話に戻ろう。 これは提案型営業やHPCの概念をレクチャーで理解した後に「プリンターの販売会社の営業」と「見込み客であるデザイン会社の社長」になりきって商談を演じる、というもの。2名の参加者が全員の前でロールプレイをし、周りはそれを観察して良かった点、改善点を考える。
営業役「こんにちは!本日はプレゼンの機会をいただきありがとうございます。弊社のプリンターの特徴を説明しますね。いくつかモデルがあるのですが、大きなポイントとしては一部あたりのコストが他社製品に比べて低い、という点がありまして…」
あらかじめ用意されたロールプレイ用の設定に基づき、営業役となった参加者は、懸命に仕様の説明を行う。その間、顧客役はただ手元の設定書に目を落としながら、うなずくだけだ。
ロールプレイの後、スティー氏は参加者全員に問いかける。 「どうでした? 商談はエキサイティングでしたか? んー…商品のことは良く説明されていましたが、正直なところ、心を動かされる、わくわくするようなセールストークではなかったですね(笑) 果たして、この商談は契約に至ったでしょうか?」
参加者一同、沈黙だ。ほとんどの人が良い商談だったとは感じていない様子。スティー氏は、しばらく参加者一同の反応を窺ってから次のように語った。
「HPC®を使った提案型営業では、名刺交換や自己紹介のあとに、いきなり商品説明はしません。そのほうが、結果的に成約につながる可能性が高いからです」
「とはいえ、まずは自社の商品やサービスの説明をしないと、お客さんに伝わらないのでは?」 というひとりの参加者からの質問に対し、スティー氏はこう答えた。
「極論を言えば、サービス説明は必要ない場合もありますよ。なぜなら、提案型営業のいちばん大切なポイントは、『お客様の声を聴くこと』だからです。『質問する・聴く=Hearing』『提案する=Proposing』『取り決める=Closing』それぞれの持つ役割を考えてみてください。いちばん大切なポイントはHearing=聴くことです。それをしないと、顧客が何を求めているのか、何が必要なのか、わかりません。分からないのにただ商品を説明しても、顧客はその必要性を感じません。」
苦笑いしながら、なるほど、という表情を浮かべる参加者たちに、スティー氏は繰り返して強調する。
「営業からの一方的な説明は、よほど「その商品が欲しい」と思っている人にしか響かない。すべては「顧客に聴く」ことからはじまります。十分に顧客の話を聴くことによって顧客を理解し、顧客から『この人に相談したい』と思われるビジネスパートナーになること。そうすれば、商談を有利にすすめるとともに、中長期的な関係を築くことができるのです」
この講座では、顧客のニーズを深く理解するために必要な傾聴、質問話法、議論の整理、反論対処、次回の商談に向けた取り決めなど、効果的なスキルをたくさん学ぶことができる。しかし、その前提として、提案型営業に必要な基本の姿勢やマインドを理解していなければ、スキルを学ぶ必要性も理解できない。まさにこのロールプレイから分かるのは「講義で一応は理解できても、それが実際にできるとは限らない」ということだ。
自分の癖や、できていなかったことに気づいた参加者たちは、顧客の立場を意識した提案型営業というスタイルを自分のものにしようという前向きな姿勢に変わっていった。もちろんこの講義の後すぐに劇的に変われるわけではないだろう。しかし重要なのは、講座で気づき、学んだことを、現場で繰り返し実践しながら自分のものにしていくことだ。ひとたび、貴社の営業社員が提案型営業という営業スタイルの「基本の型」をマスターすれば、その営業社員があなたの会社にもたらす恩恵は、計り知れないものがあるだろう。
サイコム・ブレインズUBCLの地紙氏は「提案型営業をHPC®というシンプルな言葉にかえて指導すれば、社内の共通言語になります。社員は共通言語を通じて自社の営業の『基本の型』をマスターしやすくなり、上司も足りない点を指導しやすくなるでしょう。」と話す。
講座の最後に、参加者のひとりは、こんな感想を述べていた。
「自分の営業方法は、ベストなやり方だと思っていました。最初は『こんなセミナーに参加する必要なんてない』とさえ思っていたんですが… 実は自分にはできていないことばかりだったと気づかされました。あらためて振り返ってみると、お客さんが本当は何を求めているかなんてまったく知らずに営業していたようです」
ぜひこの機会に、本講座を活用して、貴社のタイ人営業スタッフにも「気づきとスキルアップ」の機会を作ってみてはどうだろう。
受講後に講師から当講座の修了証書が授与される
取材・構成: 田村 篤(たむら あつし)
多言語マーケティング支援を展開するAGGS CO., LTD. (タイ現地法人)代表取締役。製造業からサービス業、教育業など、幅広い業界で進出支援、マーケティング支援を行う。また、一般社団法人 日本活育推進フォーラムの代表として、海外子女の研修旅行といった人材教育事業も手がけている。
タイ出身。チュラロンコーン大学サシン経営大学院および一橋大学経済学部卒業。タイのコングロマリットであるCPグループやBMCL(バンコクメトロ)、Q.House、ヤオハンなどにおいて、経営幹部として経営戦略の策定や事業投資プロジェクトの推進に携わる。1999年にUBCL CO., LTD.を設立後は、在タイ日系企業およびタイ企業の経営提案型や人材育成、日本企業のタイ進出のサポートを行っている。人材育成の領域においては、タマサート大学やマヒドン大学大学院で講師(非常勤)を務める一方、企業内研修の講師として戦略策定やマーケティング、CRM、オペレーション・マネジメント、問題解決などのコースを教えている。また、エグゼクティブ層を対象としたビジネスコーチとしての実績も多い。企業経営、人材育成以外の分野においても、ピーター・ドラッカーの経営書のタイ語版の翻訳や、講演会でのゲストスピーカーを務めるなど、幅広い分野で活躍している。タイ王国投資委員会 (Board Of Investment)顧問 (2008-2017)。
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