④「キャリアについてのバイアス」を取り除く
先述のギンカ・トーゲル教授の著書では、「日本の女性の多くが、そもそもリーダーになりたいとは思っていない、ということに驚いた」と述べています。確かに、管理職候補の女性の中には「時短勤務なのに仕事・家事・育児でいっぱいいっぱい。これ以上は無理」「上司を見ていると長時間働いているし、責任も重いし、自分にはできそうにない」「現状のまま、自分のペースで働き続けたい」と考える方も多いようです。また昨今では、「(女性だけでなく)男性も管理職になりたがらない」「(男女問わず)『自分のキャリアは会社が決めること。自分で決めることはできない』と諦めて、能力開発に積極的に取り組まなくなった」といった嘆きの声を、複数の名だたる企業の人事の方から頻繁にお聞きするようになりました。
本来キャリアというものは、自分で考え積極的に行動してこそ形成されるものです。であるにもかかわらず、「現状がいっぱいいっぱいだから」「会社が決めることだから」と思考停止したり、「上司が大変そうだから」と近視眼的な考え方に陥ることは、キャリアにおける選択肢を自ら狭めることになります。こうした考えもバイアスと呼べるでしょう。
このバイアスは、日本で長く続いてきた雇用慣行からくるものではないでしょうか。今でこそ終身雇用は揺らいでいますが、かつて大企業に所属するホワイトカラーの男性は、ジョブローテーションを重ねて管理職になり、定年まで勤務する、というキャリアパスが一般的でした。そのため、自身のキャリアを自分で計画するという意識が希薄だったようです。また女性の場合も、結婚・出産・子育てといったライフイベントを意識した場合、かつてはキャリアの選択肢が非常に少なかったため、やはりキャリアを自身で計画することができる、と考える人はまだまだ少ないようです。
こうしたバイアスを取り除くには、組織風土や働き方を改革するような全社的な取り組みが欠かせませんが、人材開発の面からアプローチすることも重要です。具体的には、社員に対し、「自身のキャリアを自身で計画しチャレンジすることの面白さ」「チャレンジしないことのリスク」「管理職とは何をする仕事でどのような面白さがあるか」「自分が管理職になったら誰を巻き込みつつ私生活との両立を可能にするか」などについて考え、自身のキャリアをじっくりと計画する時間を持たせることです。サイコム・ブレインズが実施しているキャリ開発のための研修でも、ほとんどの受講者は自分をじっくりと俯瞰する時間を持つことで、自身のキャリア形成を真剣に考え始めます。40代後半の女性からは「10年前にこの研修を受けたかった」という痛切な感想を頂くこともありました。