海外拠点のマネジメントにおいて、何が「成功」をもたらすのか。「ビジネスは人がすべて」という言葉がある。しかし、優秀な人材を揃えたところで、かならずしもよい結果が出せるとは限らない。組織におけるコミュニケーションは、事業の成否をおおきく左右する。チームで思うように結果が出せない場合、コミュニケーション不全がすべての元凶であるといっても、言い過ぎではないかもしれない。海外事業において、いかにローカルスタッフに活躍してもらえるかは、あらゆる企業が直面する課題だ。
そのような難題を解決するヒントを提供してくれるのが、サイコム・ブレインズUBCLが提供している公開講座「タイで働く日本人のための異文化理解と適応トレーニング」だ。かつては自身も駐在員としての課題を乗り越えてきた経営コンサルタント、伊東豊泰氏が講師を務めるこのトレーニングの現場を取材した。
セミナーの実践編では、実話にもとづいた、いくつかのケーススタディが用意されている。設問文の一部を引用してみよう。
〜○○氏は、……社員と良い関係を築くために、自分がCEOであると顕示しなかったし、権力も使わなかった。いつも社員の意見を求めたし、社員と一緒に昼食をとるようにしていた……〜
日本企業の組織で働く人間にとって、このような上司は、尊敬に値する理想像に近いのではないだろうか。しかし、ある農業技術専門の日系会社CEOに就任したこの人物は、タイ現地法人に赴任中、一度も予算を達成できず、CEOの職を解かれ、疲れ果てて東京にもどることになる。設問はつづく。
『○○氏は、任期途中でCEOを解任、失意のうちに帰国した。なぜ、タイ人の部下は彼を信頼することができなかったのか?』
このCEOが良かれと思ってとった行動は、すべて裏目に出てしまった。良い上司を心がけたつもりなのに、なぜ? タイ人の部下には、どうやらこのCEOが「仕事のできない、使えないボス」と映ったという。日本人が考える「信頼できる上司」と、タイ人が見るそれには、ズレがあったということだ。そこには、仕事上の人間関係を判断する上での「文化的価値観の違い」が存在するからだ、と伊東講師は解説する。
筆者が取材した当セミナーには、タイに進出した日系企業3社から、8名が参加していた。食品加工、プレス機械開発製造、保険・厚生サービス、と業種はさまざま。だが、参加者の日本人赴任者たちが直面している課題は、どれも似たようなケースがおおい。伊東講師によれば、前出の解任されたCEOのようなケースも含め、その根本的な原因はロジカルに分析することができるという。下記の6つの指標をつかい、文化的価値観の違いを比較することで、国ごとの価値観の違いが可視化される。すると、コミュニケーションの行き違いにおける「なぜ」と「どうすべき」が見えてくるという。
オランダのマーストリヒト大学で、国際経営論・組織人類学の名誉教授を務めるホフステード教授が構築した指標だ。11万6千人のIBM社員を対象に、72ヶ国、20言語で実施した調査を分析。それぞれの項目について、国別に文化の違いを数値化し、相対的に比較できるようにした。当セミナーでは、各国・各指標の数値をもとに、ケーススタディーが進められる。解任されたCEOの設問における解を求めるには、どの指標を適用すべきか。一部紹介してみたい。
あらためて、前出CEOの行動を振り返ってみよう。
〜○○氏は、……社員と良い関係を築くために、自分がCEOであると顕示しなかったし、権力も使わなかった。いつも社員の意見を求めたし、社員と一緒に昼食をとるようにしていた……〜
キーワードのひとつ「権力」。ホフステード教授が設定した指標のうち、「権力格差」がどうやら関わっていそうである。この指標が示す価値観は「権力を受け入れているかどうか」。スコアが低ければ、権力から独立的。社内の人間関係においては、上司には近づきやすいのが当然、という価値観を持っている。対してこのスコアが高い場合は、権力に依存し、上司は近寄りがたい存在という価値観になるわけだ。
察しの良い読者は、もうお分かりだと思う。スコアを比較すると、タイは日本よりもより「権力依存的」であり「ヒエラルキーが実存する」価値観を有した社会なのだ。不平等は当然であり、特権があたりまえという傾向の強いタイ。社内では「上司は近寄りがたい存在」でなければならないという点において、くだんの日本人CEOは身の振り方を間違えてしまったのである。
「価値観の違い」というぼんやりとした課題にたち向うときにこそ、データに裏付けられた分析と対策を、というのがサイコム・ブレインズUBCLの提案する異文化理解のツールだ。講師の体験談だけに基づく一般的な異文化セミナーでは、この汎用性はなかなか見出しにくいだろう。当セミナーでの学びは、海外拠点マネジメントにおける強力な武器として、あなたの会社に貢献してくれるはずだ。
期待していた以上の内容でした。今年の10月から赴任したばかりですが、現在タイ人の部下が8人います。彼らのマネジメントと同時に、予算の達成が求められる環境なのですが、日本と同じやり方ではダメだ、ということがよく理解できました。それにしても、タイ人組織の中では「上司が雑務などをやってあげることは、必ずしも良いことではない」という価値観には驚きです。日本とはだいぶ違う上司像で、自分も無意識にやっていたような気がします。明日からすぐに実践できることがありそうです。
シンガポールから赴任して間もないのですが、ちょうどいま困っていることに直結しそうな内容だったため、参加を決めました。数字で分析された理論をもとに考えるので、内容がわかりやすいですね。日頃、ぼんやりと感じていたことが「やっぱりそうだったんだ」と納得できました。弊社は、会社としてもセミナー参加が推奨されています。異業種の方に出会える機会にもなるので、日本人・タイ人にかかわらず、ぜひ受けてほしいセミナーです。
取材・構成: 田村 篤(たむら あつし)
多言語マーケティング支援を展開するAGGS CO., LTD. (タイ現地法人)代表取締役。製造業からサービス業、教育業など、幅広い業界で進出支援、マーケティング支援を行う。また、一般社団法人 日本活育推進フォーラムの代表として、海外子女の研修旅行といった人材教育事業も手がけている。
タイで働く日本人のための異文化理解と適応トレーニング ~Intercultural Management Program~1日公開講座(タイ編)
日程 | 2018年11月15日(木) |
---|---|
時間 | 9:30-17:00 |
対象 | 【海外赴任者】
|
バンコク在住のビジネスコンサルタント(Founder & CEO, Brains Pro Co., Ltd) Co-owner & Managing Director, COMTEX BANGKOK CO.,LTD. サイコム・ブレインズUBCL研修講師 慶応大学法学部卒業。新日本製鉄に約22年間在籍し、経理部門や営業部門でマネジャー、部長代理として活躍。2007年からは新日鉄とタイ大手企業であるサイアム・セメントグループとの合弁会社であるThe Siam United Steelに出向し、在タイ自動車メーカー各社ほか在タイ日系企業営業責任者として部門全体をリードする役割を担った。2012年よりタイにて独立起業し、主に在タイ日系企業に対する経営コンサルティングやその一環として組織人事マネジメントに関するアドバイザーを務めることも多い。
電話でのお問い合わせ
Tokyo:+81-(0)3-5294-5576
※日本語
Bangkok:+66-(0)82-671-8574
※タイ語・英語・日本語での対応可
メールフォームでのお問い合わせ